夜汽車

久しぶりに『世にも奇妙な物語』の「夜汽車の男」を観た。世にも〜シリーズにあまり詳しいわけではないが、知ってる話の中では1、2を争うくらいに好きだ。

夜行列車という舞台とクセのある乗客の醸し出すアングラな雰囲気の中、目まぐるしく思考を働かせながら中年男性(大杉漣)が弁当を食らう、と、言ってしまえばそれだけの話。

それだけなのに、何だか見入ってしまう。次の瞬間にはいとも簡単に砕けてしまいそうな、そんな緊張感が常に漂っている。

脚本の特異さもそうだが、演技と演出も大きな役割を果たしている。

主人公の男は殆ど表情を崩さないまま箸を動かし、黙々と咀嚼する(頭の中ではいろいろと忙しいけれど)。加えて、薄い靄(?)、けたたましいおもちゃのサイレンなど、どこか不気味でシュールな演出。クライマックスにおける外界の混沌とした様子が、ますます奇妙さに拍車をかける。

ホラーのような恐ろしさとは別の張り詰めた空気感が、画面をずっと取り巻いている感じ。それでも最後には、脱力してしまうオチが待っている。うまいなぁと思うし、唯一無二だなぁとも思う。

ショートショートでこういう話を書けたらさぞ楽しかろう、と思って、小説を書いた時期もあった。結局、殆ど成長しなかったけれども。それでもいいモチベーションになる。

そのうち自己満足でまた書いてみたい。

 

「夜汽車の男」の脚本は『孤独のグルメ』の久住さんだそうです。何年かぶりに凄く腑に落ちました。

心底美味そうな描写と素晴らしい咀嚼音は、両者に共通する魅力ですね。