笑壷
私はよく笑う。動画を観れば笑い、漫画を読めば笑い、上司につまらない冗談を言われれば笑う。思い返せば概ね愛想笑いであるが、笑う。動画や漫画などに対しても愛想笑いをする。お寒い空気を味わいたくなくて、自ずから半ば無理やり盛り上がる。誰に気をつかうでもなく、自分のために笑うのである。我ながら気味が悪いと思う。そもそも動画や漫画を鑑賞するさなか声を上げて笑うというのは実にキモチワルイ。矯正したいがもう無理だろう。悲しい。
さて、冗長に述べたがここまでは余談である。
齢15ほどになってからか、極端に笑壷に入ることが少なくなった。まあ大人にもなってゲラゲラしているのもどうかと思うので何も問題はないが、少し寂しい気もする。そんなことを考えていた折、機を狙ったかのように私のツボを撃ち抜く出来事があった。
つい先日の話。家族で外食に行ったところ、このご時世にもかかわらず私はマスクを忘れてしまった。
マスク必着の店だったので、しまったやらかした、と渋い顔をしていると、スタッフの方から急場凌ぎのマスクをいただいた。ほっと安堵して早速それを着用したのだが、これがいけなかったらしい。
宴もたけなわ、食事も終わりにさしかかった頃、妹が私の口元を一瞥し、ぷっと吹き出したのである。
訝しく思い、けらけら笑い続ける彼女を問い質すと、彼女はこう答えた。
マスクがひどくすけすけであると。
確かに、店から貰ったマスクは生地がめちゃくちゃに薄く、向こうが透けて見えるほどだった。私自身はあまり意識していなかったが、それは側から見ると衝撃的であるようだった。
「見ちゃいけないモノを見てるみたいだ」
そう言いながらなおもくつくつと笑う妹。私の口元を恥部呼ばわりする彼女に一瞬ムッとしたが、あんまりに楽しそうに笑うので、私もとうとう吹き出した。
それからはもう止まらなかった。笑うまいとすればするほどおかしく思われ、2人で狂ったように笑った。久々の「笑壷に入る」感覚であった。
顧みるとクスリとも笑えないが、楽しかった。ツボに入るときは何故だか妹がらみが多い気がする。たいてい彼女が妙なことに気がつき笑い始め、それにつられて私も哄笑するといった具合だ。幼い頃にじゃれ合ったときの記憶が、体に染み付いているんだろうか。特別仲がいいわけじゃないのだけれど。
笑うと体に良いといいます。もっと芯から笑って生きていたい。強く生きていきましょう。