穴空きな日々-2

前々回の続き。

 

左胸部の鈍痛に苦しめられながら自転車を引いて、這いずるように帰りました。自転車をせかせか漕いだ方がさっさと帰宅できるんでしょうが、もうそれすらかなわないほど悪化していたのでした。

左腕を頭の上に掲げると少し痛みが和らぐなぁと感じて、殆ど挙手している状態で歩きました。そうしているうちに今度は腕が突っ張ってくるのでスッと下げます。そうしてまた余裕が出てくると腕を上げます。この繰り返し。もはや健常者には見えませんが、なりふり構っている場合ではなかったのです。

暫く歩いたところで私はとうとう立ち止まりました。目が眩んでもう一歩も動けない。大袈裟なようですが、地が波打つように思えました。誰でもいいから助けてくれぇと通りすがりの人に泣き付こうとしたところ、ヴヴヴヴとポケットが震えました。電話です。

息絶え絶えにそれに出ると、副店長の声がしました。今どこなのっ、大丈夫なのっ、なんで無理するのっ、と怒濤の勢いでまくし立てられながらも、やばいです、やばいんですぅと縋るような声を出して助けを求めました。すると副店長は「救急車呼ぶから、近くの店にいなさいよっ、絶対よっ」と有無も言わさぬ調子で言い放ち、すぐに電話が切れました。なんて頼りになる人だろう、彼女がいなければきっと私は行き倒れ誰にも相手にされず絶命していました。

言われた通りすぐ目の前にあったホームセンターに逃げ込み、スタッフの方(奇しくも私と同じ苗字でした)に介抱を頼みました。胸を押さえて苦悶の表情を浮かべる私に若干怯えている様子でしたが、それでもとても優しく対応してくれました。ちょっとの間ベンチに寝っ転がってウンウン唸っていると、遠くでサイレンの音。救急車のお出ましです。

救急隊員の方が勇ましく登場し、名前や住所や親の連絡先などを手際よく聞き出すと私を担架に載っけて颯爽と救急車の元へ。相変わらず胸は痛くほんの少しの振動で歯をくいしばる羽目になっていましたが、それでもなおこんなしょうもないことに多忙の身である救急隊員の方々を巻き込んでしまったことを酷く申し訳なく感じていました。

それでも救急車はぐんぐんと道を行き、気付けば私は病院にいました。

若い看護師2人が傍らに立ち、私の腕をまじまじと観察しています。「ここがいいかな」「そうねぇ…あ、こっちの方が太くていいよ」「本当」と、そんなことを言いながら。どうやら点滴の針を刺し込む血管を探しているようでした。私は(失礼千万なことに)なんとなくドキドキしてしまいましたが、そんな心臓の鼓動すら痛みを生み出すのでまたすぐに無心になりました。

さてそこで点滴の針をぶっ刺したわけですが、これがもう、この一連の出来事の中で一番苦しい時間でした。一応針の痛みに耐え忍ぶ程度の年齢相応の気概は持っているつもりです。しかし酷かったのは、刺した直後の異様な吐き気。身体に異物が流し込まれたせいなのか、それとも「異物が流し込まれている」と怯える私の精神状態のせいなのかよくわからないけれども、喉元にすぐ込み上げてくるものがありました。吐き気と胸の疼痛のダブルパンチ。一瞬人生のゴールが遠くの方に薄ぼんやりと見えた気がしました。

我慢できずに涙目で看護師さんに嘔吐感を訴えます。それを聞いた彼女は慣れた手つきでさっと私の眼前にゴミ箱を用意しました。安心から汚いものがどっと溢れ出します。美人の看護師さんにこんな醜態を晒し何とも複雑な気分でしたが、ひとまず難を逃れることができました。情けないことこの上ありません。しかし背に腹はかえられぬ。

暫くすると病態の診断を終えた医師が飄々とした様子で私の元に現れました。そうして伝えられた病名、それは…

 

まとまりがなくなってきたので続きます。

数百字に収めるつもりだったのにどうしてこんな纏めるの下手なんだ。

 

(タイトルでお察し)