穴空きな日々-3

さあもういい加減書き終えよう。

 

医師が告げた病名、それは「自然気胸」というものでした。簡単に言えば何かの拍子に肺に穴が空いてしまい、それが破けた風船のように上手く膨らまない状態なのです。先生はレントゲン写真に指を置き「ここ、凹んでるでしょ」と言いました。全然凹んでるように見えなかったのですが、突っかかってもしょうがないので「あー本当ですね」と適当に話を合わせました。

「これね、治療大変なんですよ」。いやらしく笑って先生は治療方法について話し始めました。「肺が萎んでるから、胸のところに少し空洞ができるでしょう。そこに空気が溜まって、より一層肺が膨らまなくなるわけです。なのでそこに小指くらいのチューブを差し込んで、空気を逃がしてやる。そうするとまた肺が正常に膨らんでくれるんだよ」。話を聞いて私はぎょっとしました。そのぶっといチューブとやらを胸に差し込む…それすなわち、「手術」を受けねばならぬということではないか。

「チューブつけてる間はね、ズキズキと痛むこともあるんだ。大変そうだね」。人ごとのようにのんびりと言う先生。私はもうすっかり怯えて、この世の終わりを予感したような、酷い表情をしていたと思います。腹を掻っ捌いて内臓をいじくり回されると噂の、あの恐ろしい「手術」とやらを体験するだけでなく、小指大のチューブに繋がれ、殆ど絶え間なく生ずる胸の疼きに耐え忍ばなくてはならないなんて。もう夢も希望もないではないか。

半ば泣きそうになりながら俯いていると、先生は何でもないように言いました。「まあ君の場合軽いから、安静にしてりゃ治るよ」。

それを先に言ってくださいよ先生っ、と背中をバンバン叩いてやりたくなる心を抑えつつ、私は涙目で苦笑しました。

 

それから緊急病棟で一夜過ごし(痛みと患者の呻き声でまともに寝られなかったけれども)、次の日の昼には早々に退院できました。

退院の際に説明されたのが、気胸は再発可能性が高いということでした。数値にして約30%。気圧の変化にも弱いらしく、飛行機に乗ったり、台風が接近したりするだけで肺が破けてしまうらしいのです。一度発症するだけでそうも脆くなるものなのか。飛行機はともかく(そもそも高いところが怖い)、台風なんて不可避の天災はどう対処すりゃいいんだろうか。悲しいかな、多分どうもできないんでしょう。

さて、そういう経緯があって、最初の記事に戻ります。ちょっと走っただけで変に胸が痛むのはきっとこのせいだったのです。以前と痛む側が違いますが、恐らく再発箇所は右も左も関係ないのです。一度気胸になったということは、私にはその素質があるということに他なりません。何せ痩せ型細身の男性が罹りやすいというわけのわからん性質を、気胸は持っているのですから。

一生こんな状態異常を背負っていかなくてはならないと思うと悲しくてたまりません。私以上に長く苦しい生活を送っている人もごまんと存在しているはずで、その人たちには畏敬の念すら抱きます。しかしだからといって頑張れる気は微塵も起きません。いっそのこと肥満体型に成り果てれば問題ないのかもしれませんが、それはそれでまた別の問題を惹起しかねません。八方塞がりであります。

まぁ不幸中の幸い、再発したとしても大抵は「我慢できる程度の痛み」なのだということがわかりました。悪化しないように我が身を労っていきましょう。ぶっといチューブなんて差し込まれたらどうしようもありませんから。

 

強く生きていきましょう。